フィナステリドは有名な薄毛治療成分の1つですが、実際に使用するにあたって心配になるのが「副作用」です。よく「性欲がなくなる」だとか、「肝機能が低下する」だとか言われるやつですね。

3大欲求のひとつである性欲がなくなるなんて死活問題ですね…
しかし、フィナステリドの近年の研究では、実は副作用はほとんど無いのではないかということが研究の結果から研究者達の間で話題になっています。
「フィナステリド 副作用」と検索すれば色々な副作用をほのめかす記事がありますが、この記事では「フィナステリドに副作用がほとんどなく、安全である」ことを証明する材料として2種類の論文を紹介します。
プラセボ効果によるフィナステリドの副作用検証
まず初めに紹介するのは、フィナステリドとプラセボ効果について書かれた論文です。
プラセボ効果とは
プラセボ(偽薬)と言う、効き目ある成分が何も入っていない薬を服用しても、患者さん自身が、自分が飲んでいるくすりは効き目があると思い込むことで、病気の症状が改善することがあります。
これをプラセボ効果と呼びます。要は思い込みの力ですね。
その逆も然りで、プラセボ効果で体調が悪くなることもあります。
なぜ実験でプラセボ(偽薬)を使うの?
例えば、新しい薬の効果を確認して評価したいときには、その薬の効果は最終的には人で試されます。
その時に、薬を使用する人が、本当は効果のない薬でも「最新薬だ!これを飲めばなんとかなる!!」と思い込んで、思い込みの力で病気が回復してしまったら(要は、プラセボ効果が発生したら)評価に困ってしまいます。
つまり、プラセボ効果の存在のせいで、薬を使った後で病気が良くなったとしても、必ずしも薬が効いたために良くなったとは言えないのです。
そのため、事前に薬の中に「効果を試したい薬」と「何の効果もない偽薬(プラセボ)」を混ぜて薬の効果を判断するために実験を行うのです。
◾️「効果を試したい新薬」だけ効果が出て、プラセボを飲んだ人に効果がなければその新薬は十分効果あり。
◾️「効果を試したい新薬」と「プラセボ」両者の実験グループに効果がある、もしくはない場合はその新薬の効果とはいけないので新薬としては微妙な評価になる。
薬の効き目が本当にあることを確かめるためには、思い込みによる体調の変化や、病気に対する自然治癒傾向と、薬の効果をきちんと区別して評価しなければなりません。
そのために考え出されたのが、プラセボ(偽薬)を用いた臨床研究の方法です。
プラセボ効果を用いた研究を行うことが一番信用のある研究と言われており、フィナステリドでも勿論、臨床研究は行われれいます。
フィナステリドの臨床試験
医薬品の臨床試験にプラセボ効果を用いた実験は、かなり質の高い実験です。この実験での検証をまとめる事でフィナステリドの安全性をある程度表せます。
複数の実験内容を簡単にグラフにまとめますね。
過去の実験
論文発行年 | 評価グループ | 調査期間 | 参加者 | フィナステリドグループの副作用 | プラセボグループの副作用 |
1992年 | ・フィナステリド1mg ・フィナステリド5mg ・プラセボ(偽薬) | 1年 1部2年 | 895人 | 1mg摂取のグループ ・性の副作用により3名実験中止 ・2%が性欲減退 ・1.4%が射精障害 ・1.7%がED 5mg摂取のグループ ・3名実験中断 | 副作用により3名実験中断 |
1996年 | ・フィナステリド5mg ・プラセボ(偽薬) | 2年 | 246人 | 10%が性欲減退 7.7%が射精障害 15.8%が勃起不全 | なし |
1998年 | ・フィナステリド5mg ・プラセボ(偽薬) | 4年 | 1000人 | 6.4%が性欲減退 0.8%が射精障害 8.1%が勃起不全 | なし |
2002年 | ・フィナステリド1mg ・プラセボ(偽薬) | 1年 1部5年 | 1553人 | 4.4%性の機能障害 1.9%が性欲減退 1.4%が射精障害 1.4%がED 1.4%が副作用により実験中断 | 2.2%が性機能障害 1%が副作用により実験中断 |
2003年 | ・フィナステリド1mg ・プラセボ(偽薬) | 不明 | 424人 | 8.7%が性機能障害 | 5.1%が性機能障害 |
1999年 | ・フィナステリド1mg ・プラセボ(偽薬) | 2年 | 326人 | 0.3%が勃起不全 | 0.3%が射精障害 |
2000年 | ・フィナステリド1mg ・プラセボ(偽薬) | 4年 | 212人 | 1.9%が性機能障害 | 0.9%が性の副作用 |

付け加えると、フィナステリドの副作用で性欲がずっと下がったままだったと言う人は1人もいませんでした。
フィナステリドを止めた人はしっかり回復しているようです。
面白いのは、フィナステリドが性欲減退効果があると事前に知ったプラセボのグループが、何も効果のない薬を飲んで何名か実際に性欲減退を感じているところですね。
これにより次のようなことが分かります。
◾️偽薬を使用したグループは実際には副作用なんて何もないのに、プラセボ効果で副作用を感じている。
◾️フィナステリドを使用したグループは、実際に副作用の影響を受けている人はいるようだが、「本当は副作用の影響を受けていないはずの人でも、副作用を感じている可能性がある」
つまり、副作用として書かれている確率よりも、実際に副作用の現れる確率はさらに低いでしょう。
プラセボ効果による検証まとめ
結論を言えば、1度副作用を感じてからそれが続いた人もおらず、また、副作用が起きる確率も想定しているものよりも低いことがわかり、フィナステリドによる副作用は想定されているよりも少ないことが分かりました。
プラセボ効果を用いた実験は非常に重要で、特に医薬品を用いた検証実験にかなり役立ちます。このままフィナステリドの副作用の解明が進めば、現在においても、比較的安全で安心できる育毛成分としてフィナステリドの人気はさらに高まってくるのではないでしょうか?
ランダム化対照研究によるフィナステリドの副作用検証
この実験は、実際にフィナステリドの副作用として認知されている「副作用が出る確立」と、実際にクリニックでフィナステリドを処方して「副作用が出た確立」が一致しないことから始まった研究です。

実際にクリニックでフィナステリドを処方して、副作用が出た確率がかなり低かったみたいです。
また、フィナステリドは同じAGA治療の成分であるミノキシジルと比較して研究が少なく、まだまだ副作用について確実なことが言えるような十分な量のデータがありません。
さらに、今までの研究では、
①実験対象を選ぶ
②実験を行って分析結果を出す
という流れが主流でしたが、今回の研究では実際に存在する薄毛治療クリニック1つを対象に、そこに訪れた人全員を対象に性機能に関するアンケート調査を行うというランダム化された集団ベースでの検証を行います。
もちろん、クリニックを訪れる人の中にはフィナステリドを使用している人も、そうでない人も混ざっています。この実験により、完全にランダムにフィナステリドを使用している場合とそうでない場合の性機能の違いについて検証が行えます。
実験内容
調査対象 | ・アメリカにある薄毛治療クリニックに訪問した人 ・調査期間中に762名にアンケートを行った |
実験内容 | ・全員にASEXと呼ばれる性機能調査に使われるアンケートを回答してもらう ・「フィナステリドを使用しているか」と「最近の性事情」について複数の質問を行う |
アンケートに答えてくれた人の詳細
アンケートに答えてくれた762名(18歳〜82歳)のうち、663名は日常的にフィナステリドを使用しており、99名はフィナステリドを使用していない人でした。
◾️年齢層について
フィナステリド使用(人) | フィナステリド不使用(人) | |
18歳〜29歳 | 137 | 29 |
30歳〜49歳 | 286 | 34 |
50歳以上 | 229 | 35 |
年齢不詳 | 11 | 1 |
合計 | 663人 | 99人 |

10代、20代もいますが、やはり30代〜50代以上の年齢層がほとんどですね
◾️【フィナステリド使用者に関して】フィナステリドの使用期間について
12ヶ月未満 | 103 |
1年〜5年 | 299 |
5年以上 | 209 |
不明 | 2 |
合計 | 663人 |
結果
なんと、アンケートの結果からはフィナステリドを使用している人、使用していない人の間にはほとんど「性機能の変化」に違いがないことが分かりました。
◾️アンケートの結果
フィナステリド使用 | フィナステリド不使用 | |
性機能に何も問題はない | 502(75.7%) | 61(61.6%) |
少し性欲の低下を感じる | 143(21.6%) | 26(26.3%) |
性機能に問題がある | 18(2.7%) | 12(12.1%) |
合計 | 663人 | 99人 |
◾️性欲に関して自己診断してもらった結果
フィナステリド使用 | フィナステリド不使用 | |
性欲について | ||
性欲の低下を感じる | 495(74.7%) | 77(77.8%) |
性欲の低下を感じない | 151(22.8%) | 22(22.2%) |
不明 | 17(2.6%) | 0 |
性機能について | ||
性機能の低下を感じる | 527(79.5%) | 75(75.8%) |
性機能の低下を感じない | 118(17.8%) | 22(22.2%) |
不明 | 18(2.7%) | 0 |

割合の方を見てみると、本当にほとんど差がないのがわかりますね
この結果からわかることは副作用の原因はフィナステリドではなく、以下の要因である可能性が考えられるということです。
◾️単なる日常的なストレスや加齢が性機能の低下の原因である
◾️髪の毛がないという精神的なストレスと、それに伴う自信の損失が性機能の低下に繋がっている
ランダム化対照研究による検証まとめ
この研究では、フィナステリドを使用したことのある人とそうでない人の性機能にほとんどさが見られなかったため、性機能の変化に関してはフィナステリドの使用は全く関係ないといっていいような結果となりました。

しかもこれ、2019年発表の論文でかなり新しいです。フィナステリドの副作用がほぼ全くないことを発表する論文は近年では珍しいですね
この論文ではAGA治療を行う上で、フィナステリドの使用に関しては副作用の心配はいらないと宣言しています。なかなか調査対象の母数も多いですし、かなり信頼できるソースですね。
フィナステリドの副作用検証まとめ
両者の研究でフィナステリドの副作用がほとんど気にするに値しないものであることが分かりました。
プラセボ効果では、何の効果もない薬を飲んでいる人が性欲減退を感じたりしますし、ランダム化対照研究では、性機能の低下はフィナステリドを使用していない人も感じているので、フィナステリド以外の要因である可能性が出ました。

性欲なんて気分次第で変わるものですから、今までの検証が結構適当だったのかも知れませんね
フィナステリドの確率はクリニックや研究機関によって色々定義しているようですが、一般的には2%〜4%ほどと言われています。しかし、今回の研究をから判断する限り、副作用の確率は更にぐんと低くなることが予想できます。
フィアステリドは現在ミノキシジルと並び、2つしかFDAに認められていないAGA治療成分の1つです。薄毛は男女ともに人生に関わる重大で深刻な問題ですから、薄毛を治すためにフィナステリドの使用は躊躇わないで欲しいですね。
今回使用した論文については以下にリンクを貼りますので、詳しく知りたい方は是非御覧ください!
参考文献
◾️プラセボ効果での検証について
Gilling, P. (2015). Faculty of 1000 evaluation for Persistent sexual dysfunction and depression in finasteride users for male pattern hair loss: a serious concern or red herring? F1000 – Post-Publication Peer Review of the Biomedical Literature. doi: 10.3410/f.725995638.793512121
◾️ランダム化対照研究での検証について
Haber, R., Gupta, A., Epstein, E., Carviel, J., & Foley, K. (2019). Finasteride for androgenetic alopecia is not associated with sexual dysfunction: a survey‐based, single‐centre, controlled study. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 33(7), 1393–1397. doi: 10.1111/jdv.15548
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