今から何千年もの昔から、様々な宗教で髪の毛は神聖な力を宿すものとして認識されてきました。それに伴い、髪型にも重要な宗教的な意味合いが持たれるようになりました。
小さい頃、歴史の授業でフランシスコ・ザビエルの頭を見て「変な髪型!!」と思ったことはありませんか?実は、その髪型にもしっかりとした神聖な意味があります。
髪型はある時には「何かとの契約」を意味したり、またある時には「浄化の儀式に参加するための条件」として宗教上で重要な役割を持っているのです。

たかが髪の毛と思っていたけど、深い意味があるんですね…
日本は宗教とはほとんど無縁な人が多いため実感が無いと思いますが、世界を広く見ると宗教の教えの通りに神聖な髪型ずっと続けている人は大勢います。
この記事では、海外の映画やニュースでおそらく1度は見たことがあるであろう「宗教的な髪型」について紹介します!
Dreadlock(ドレッドロックス)
アフリカ系の人達を彷彿とさせる髪型であるドレッドロックス(ドレッドヘア)は、アフリカ系のミュージシャンである故ボブマーリーが有名になったことで、世界的に知られるようになりました。
この髪型は、旧約聖書に基づいて髪の毛を傷つけることを禁じたことを原点としています。
レビ記21-5「頭髪の一部をそり上げたり、ひげの両端をそり落としたり、身を傷つけたりしてはならない」
士師記13-5「その子の頭に剃刀をあててはならない。彼は、ペリシテ人の手からイスラエルを解き放つ救いの先駆者となろう」
Wikipedia
更に、ドレッドロックスは(ドレッドdread=恐ろしい、locks=房状の)を意味し、アフリカのアイデンティティの象徴であり、黒人差別や植民地問題、ヨーロッパの帝国主義と戦うための意識を表した髪型です。
当時は特に植民地問題に不満を抱える人が多く、人々は苦難からの解放を求めてこの髪型が増加しました。

現在ではお洒落な髪型の1つとして知名度は高いですね。ラッパーがよくこんな髪型してそう(偏見)
Navajo hair(ナバホ族の髪型)
よくアメリカのカートゥーンなんかでネイティブアメリカンが描かれる時によくこういう髪型をしているのを見たことがありませんか?この髪型は、アメリカの原住民であるナバホ族の髪型が発祥です。
原住民は「髪は神聖なものである」という認識を持っています。彼らは毎日髪をお手入れすることで髪の毛を大事にしてきました。
彼らは「髪の毛には記憶が宿っている」と信じています。それ故に多くの人は髪の毛を伸ばしたまま丁寧に扱い、汚すことのないように写真のような伝統的な髪型にしているようです。
また、ナバホ族はよく家族の髪の毛を櫛で解かす文化があり、他人の髪の毛を綺麗にすることで愛を表現していたそうです。

なかなか素敵な文化ですね。髪の毛が神聖なものというのは、現在でもあまり変わらない気がします。気軽に触れられませんからね。
Chudakarana(チュダカラナ)
チュダカラナは古くから行われているヒンドゥー教の儀式の1つで、生まれてから1番最初に行う散髪のことです。
聖書によると生まれてから最初に生える髪の毛は前世を象徴しています。最初の髪の毛を全て剃る事によって、前世から自分を切り離し、新しい生活を歩むことを意味します。

ナバホと同じように、髪には記憶のようなものが宿っているという考えなのですね。
この散髪は子供が1歳〜3歳の間に行われます。聖地で行われるのが古くからのしきたりで、聖地の例としてガンジス川付近で行われることが多いようです。
Pabbajja(パバジャ)
パバジャは「出て行く、出家」という意味を持っている、「一般人が欲求を捨てて禁欲主義者になる仏教の儀式」です。この儀式の過程で写真のような坊主スタイルの髪型になります。
出家をすることで世俗を離れ、家庭生活を捨て仏教コミュニティに入ることになります。昔のチベット、中国、日本、インドでは、修行者が出家をして解脱への道を求めて禅定や苦行などの修行を行いました。

要は、仏教にある古くからのお坊さんスタイルです。現在でも広く残っていますね。
Payot(パイヨ)
この髪型は、髪の毛の両サイドを伸ばし、丁寧に編んで下ろすパイヨという髪型です。伝統的なユダヤ教徒に見られ、男性にのみ適応される髪型ですね。
パイヨが何を意味するのかは不明ですが、いくつかある説のうち有力なものは
◾️他の宗教では横の髪を剃って頭頂部の髪を伸ばす規律が多いため、それに対抗するように横の髪を伸ばした
◾️単に男性と女性を区別するため
というものです。
パイオは地域によって髪型に若干の違いがあり、髪を耳の後ろに押し込む人もいれば、耳の周りに巻きつけたり、ねじったりする人もいます。
更には、パイヨを行う人の中には、ヒゲを伸ばす人が多いです。その理由は、「ひげに魔法の力が染み込んでいる」という言い伝えがあるからですね。
神秘の力を宿す髪と、ヒゲを伸ばす事で「髪とヒゲ、それぞれ別の恩恵を受けることができるのでは?」という考えで髭も伸ばしています。
Kesh(ケッシュ)
ケッシュはシク教という、16世紀にインドで始まった宗教で使われている髪型です。

ディズニーのアラジンとかジーニーがこういうターバン頭に巻いてましたね。
シク教徒は5つの信念を持っており、①kirpan(鋼鉄の剣を使う事)、②kaccha(綿の下着をつける事)、③kanga(木製の櫛を使う事)、④kara(鋼鉄のブレスレットをつける事)、および⑤kesh(髪の毛を切らない事)の5Kを大事にしています。
⑤のケッシュを守る事によって髪が伸びます。そして、シク教で長い髪の毛は「力」と「神聖さ」を表しています。更に髪を切らずに自然に保つことは、シク教の神であるワヘグルへの信仰を象徴しているのです。
シーク教徒であるなら男性だけでなく、女性も同様に髪の毛だけでなく身体中全ての体毛を剃ることを禁じられます。しかし、現代では多くのシーク教徒の女性は、「体毛は処理しないと汚いし綺麗になれないじゃない!!」ということで、この厳しい規律を放棄しているようです。

美意識のために規律放棄できるのか…
Catholic Tonsure(トンスラ)
おそらく義務教育を終えた人なら全員聞いたことがある「フランシスコ・ザビエル」はハゲているわけではなく、こういう髪型だったのです…。

フランシスコ・ザビエルの髪型の名前はトンスラ!一生必要のなさそうな知識ですね。
トンスラは、ラテン語で「髪の毛をそること」を意味する、キリスト教の聖職者に関係する髪型です。中世の教会では、修行僧が正式に聖職者になる際の格好としてこの髪型にしていたそうです。
修行僧が初めて修道院に入るときにはまず髪を短く切ってから入ります。そこで、修行僧が誓いを立てて修道士にお辞儀をすると、頭頂部の毛がくり抜かれるように剃られます。
なぜこのような髪型になったのかにはいくつか説があり、
◾️ペテロがアンティオケイアで説教中にキリストの聖名を侮辱する人々に頭頂部の髪を切り落とされたこと
◾️磔刑となったイエス・キリストが十字架上で頭にかぶせられていたとされる、いばらの冠を模している
がモデルになったという説が有力です。ちなみに、フランシスコ・ザビエルの髪型はトンスラではないのではないかという意見もありますが、真偽は詳しく分かってはいません。
House of David(ダビデの家)
「ダビデの家」というのは髪型の名前ではなく、1903年にアメリカのミシガン州で設立された終末論的なカルト団体の事です。彼らは全員写真のような髪型をしていました。
この宗教団体は自称神の使いの集いであり、いつの日かメシア(救世主)が帰ってくる時に備えてイスラエルの12部族を統一しようという目標を掲げています。

それがなんでこんな髪型になったんだ?
この団体メンバーはイスラエルの教典の教えのもとに、世俗的なものから離れ、髪を含む身体を傷つけないために、麻薬、性行為、肉、散髪を控えました。更に、髪を結ぶ事も禁じられていました。結果として一度も髪を切らずに写真のような髪型になったようです。
驚くことに、1914年には宗教の団体メンバーを集めるために野球チームを結成されました。これが意外と人気を出す結果となり、ただの一般的な宗教団体から、知名度が一気に上がったようです。
Jata(ジャタ)
「Jata」はサンスクリット語で「編んだ髪、お下げの髪」というような意味があります。約2500年続いているというかなり歴史のある髪型です。
ヒンドゥー教では、このような髪型は破壊と再生を司る神であるシヴァとの契約を表しており、多くの聖者や賢人達がそうしていました。ジャタにする事で「無限に続く魂の輪廻転生のサイクルを逃れよう」という決意を表しているのです。

この髪型は神との契約の印だったのですね…!
ちなみに、ジャタは自前の髪の毛でこういう髪型にしている人は少なく、多くはカツラのようになっています。カツラというか、むしろ頭に巻くターバンのようになっている感じですね。
ジャタはメンテナンスが結構難しく、2〜3日毎に定期的に洗わないとシラミや雑菌が増え、かなり不衛生になってしまいます。
ジャタは男性だけのものでは無く、女性が着用するケースもあります。インド南部では、特別な女性が神への献身のしるしとしてジャタを着用している文化が続いているようです。
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